木造ラーメンの建築構造物特許

前回のブログ「木造でのラーメン工法」を受けて、

こんにちは。弁理士の山本英彦です。

今回特許が登録されることになった知財事業研究所の木軸ラーメン構造物の特許について特許的な視点から分析します。ちなみに、発明の名称は「建築構造物」で、知財事業研究所では、「木軸ラーメン工法」と呼んでいます。

Simple is Best

まず。この特許に弁理士として感じる凄さを一言で言うと、simple is bestです。特許がシンプルだと、少なくとも3つの良いことがあります。

①権利範囲が広くなる

②真似されにくいくなる

③実施しやすい

1つずつ説明していきます。

①権利範囲が広くなる

特許的にはこれはとても重要です。よく、特許をとったけど使えない。という趣旨の話を聞きますが、それは特許の内容が複雑過ぎるという場合が多くあります。複雑すぎて、こんなの誰も真似しないよというイメージです。

シンプルな特許というのは実現するために必要な要素が少ないということです。余計な要素がないのでいろいろなことに利用されやすい特許ということができます。すなわち利用される範囲=権利範囲が広くなるということです。

②真似されにくい

シンプルだと読む人も内容を理解しやすいです。複雑すぎる内容だと、誤って理解されて真似されるということがあります。外見が良くないため偽物みたいな刀に触ってしまって手が切れるというイメージです。

内容が明確にわかれば、あえて真似しようとする人以外は特許に近づいてこなくなります。本物の刀と分かっていれば、普通の人は、あえて刃に触らないですよね。

③実施しやすい

知財事業研究所としては、これが一番重要だと思います。実施できない、すなわち事業化できない特許に意味はありません。複雑な技術内容を含まないシンプルな特許は実施が容易になります。

事実、今回の特許は、木の柱と梁とL字形状の金物があれば、実現できます。何も新しいものを作る必要はありません。実施するのが簡単です。

シンプルだと特許を登録するのが難しい?

シンプルな特許は1つだけ課題があります。それは、審査が通りにくいので、登録されにくいということ。シンプルな特許ほど、応用範囲が広いので、逆説的に近しい技術が多くあり特許として登録されにくくなります。

しかし、木軸ラーメン工法の特許は見事登録になりました。これは、発明の捉え方、言い換えると、技術を常識的な視点から外してみることだと思います。

木軸ラーメン工法の特許を事例に考える

木軸ラーメン工法は、繰り返しますが、木の柱と梁とL字形状の金物だけで構成されます。既存の技術ばかりです。金物を構造物に利用するとき、金物を使うなら強度の強い金物で支えるというのが常識的な考えではないでしょうか?事実多くの木造建築物において金物で強度を確保しているものばかりです。

木軸ラーメン工法の金物は実はそれほど強度を必要としません。思考実験ですが、L字金物は構造物を支える支点になるL字金物が蝶番のように可動式であっても固定されます。木軸ラーメン工法は金物で強度を確保するのではなく、柱と梁と金物で組まれる構造物全体で強度を確保するという視点から生まれました。

まとめ

シンプルな特許はいろいろとメリットがあります。

一方で、シンプルな特許は登録されにくいといわれることもありますが、常識から視点を外すことにより、シンプルな特許が取得可能になります。

このブログでは特許の視点から木軸ラーメン工法を分析してみました。今後は分析以外にも特許取得の過程や具体的な内容についても説明していきたいと考えています。